高次非線形誘電率顕微法

高次非線形誘電率顕微法は通常の非線形誘電率顕微法とどこがちがうのでしょうか?

高次非線形誘電率顕微法は、通常の測定で測定している非線形誘電率(3階のテンソル(以下ε(3))と示します。)よりも更に高次の非線形誘電率(4階,5階,6階,・・・のテンソル(以下ε(4),ε(5),ε(6)・・・)を測定しています。

それでは高次の非線形誘電率を測定するとどのような利点があるのでしょうか?

高次の非線形誘電率の測定では低次の非線形誘電率の測定よりも高分解能で、試料の表面のみの情報を得ることができます。

下図を見てください。この図は、それぞれの次数の線形(以下ε(2))・非線形誘電率を測定した時に有効な電界の分布を示しています。この電界の分布がSNDMの分解能と深さ方向の感度に対応しています。(図中のaは探針の半径で、図は針先半径で規格化してあります。)

この図から高次の測定の方が低次の測定よりも電界が集中していることが分かり、高次の非線形誘電率の測定の方が高分解能で試料の表面のみの情報を得ていることが分かります。
よって高次非線形誘電率顕微法を用いると試料の表面のみの情報を高分解能で得られることが分かります。
(具体的な分解能、深さ方向感度の数値に関しては論文を参照ください。)

それではどのように高次の非線形誘電率を測定するのでしょうか?

SNDMを用いて高次の非線形誘電率を測定するには、通常のSNDMの測定で次の点を変えるだけでできます。

下図はSNDMのブロックダイアグラムです。通常の測定では、ロックインアンプの参照信号は交番電界と同じ周波数成分を入れていますが、ここでロックインアンプの参照信号に交番印加電界の2倍の周波数を入れればε(4)、3倍の周波数を入れればε(5)に対応した信号を得ることができます。このようにロックインアンプの参照信号を変えるだけで高次の非線形誘電率を測定することができます。

次に実際の測定例を示しましょう。

上図はPZT薄膜のε(3)とε(5)の非線形誘電率分布像です。通常の測定よりも高次の測定の方がより微細な分極構造を検出しています。

また、高次非線形誘電率顕微法を用いることにより、LiNbO3に数格子レベルで表面層が存在し、それを除去しても数時間後に再生することが分かりました。

上図は人工的に分極を周期的に反転したLiNbO3を測定した結果です。(上図右は今回の測定の模式図です。ε(3)、ε(4)、ε(5)の矢印は深さ方向の感度を表しています。)
大気中に長時間保管された状態のLiNbO3は、高次の非線形誘電率測定では有効な信号を得られていません。
そこでこのPPLNを機械研磨して直後に測定した結果を次に示します。

機械的に表面層を除去することにより、プラス面のみ高次(ε(5))の非線形誘電率を測定することができました。これは、マイナス面は表面層ができやすく、研磨終了後直ぐに表面層ができたためではないかと思われます。

(研磨直後の像には、分極の向きに関わらず一定であるはずの4階のテンソルである非線形誘電率(ε(4))に周期が見られることもこのことを示していると思われます。)

上図は研磨後1時間たった後の非線形誘電率像です。研磨前と同じように高次の非線形誘電率測定で有効な信号が得られてなくなりました。これは、LiNO3表面に表面層が再構成されたためだと考えています。