走査型非線形誘電率顕微法(SNDM)とは

何を測る技術か?

走査型非線形誘電率顕微法(SNDM)は物質の電気的異方性(強誘電体の自発分極,半導体における電気双極子モーメントなど)を可視化することができる顕微鏡技術です.ここでは強誘電体分極分布の観察を例にしながら,SNDMについて紹介します.

強誘電体の極性(分極)とは?

下図のように、強誘電体は強磁性体(磁石)と同じように極性を持っています.ただし,強磁性体の極性はN極とS極ですが,強誘電体の場合は電気の+と−です.そして,その極性(分極)は外部から強い電界を加えることで強制的に反転させることができます.一度反転した分極は,電界をゼロに戻しても反転したままの状態で維持されます.さらに今度は先程とは逆の向きに強い電界を加えると,強誘電体の分極はもう一度反転し,元の極性に戻ります.これを強誘電体のヒステリシス(履歴)特性と呼びます.(下図参照)

Illust: 強誘電体のヒステリシス曲線

この分極は材料中で均一な場合もありますが,部分的に反転している場合もあります.また最近では,人工的に分極を反転させていろいろなデバイスに利用する研究が盛んに行われています.

SNDMはこのような分極の2次元的な分布状態を計測する技術なのです.

強誘電体の分極分布計測は一般的に困難

強磁性体で極性分布が測られているのですから,強誘電体でも同じようにできそうですが・・・

強磁性体の極性(磁性)はN極とS極が必ずセットになって存在し,磁場が試料の外部に漏れるため,極性分布を計測することができるます.しかし強誘電体の場合は,電子やイオンなどの+だけ,あるいは−だけの電荷が存在するので,それらの電荷で試料表面が遮蔽(シールド)されてしまうといったことが起こります.このとき電界は外部に漏れません.ですので,強誘電体の場合は強磁性体の場合とは違って,外部の電界を測れば極性が調べられるというわけにはいきません.

Illust: 強誘電体表面の電場遮蔽の模式図

つまり,強誘電体の分極分布を測るのは一般に困難で,何らかの工夫が必要だということになります.

なお,永久磁石があるのに永久電石がないのも,上で述べたような電荷による遮蔽が起きるためです.また,磁気記録方式が既に実現しているのに,強誘電体記録の実現が難しいことも,これと深く関係しています.

SNDMによる強誘電体の極性分布の観察

SNDMを用いれば,強誘電体試料表面が電荷で遮蔽(シールド)されていても,分極分布を観察することができます.

Illust: SNDMのプローブとステージの部分

上の写真は,SNDMのプローブとステージの部分です.この装置は,大気中で簡単に強誘電体の分極分布を2次元的にマッピングする事ができます.しかも,ナノメートル(1ナノメートル=100万分の1ミリメートル)オーダーの高い分解能で観察することができます.

ここでは強誘電体の観察に関して紹介しましたが,SNDMは他にも例えば,半導体デバイスにおける不純物ドープ濃度の分布の観察や,蓄積電荷の可視化なども行うことができます.

詳しいSNDMの原理については,「SNDMの原理」のページをご参照下さい.