SNDMでは,非線形誘電率を測定することによって,分極の方向を検出します.
分極状態が上向きであっても下向きであっても,線形の(通常の)誘電率は変わらないのですが,非線形誘電率は符号が変わります.ココに着目しています.
非線形誘電率が存在するということは,その材料に電界をかけると誘電率が変化することを意味しています.
ということは,電界をかけた時,誘電率がどう変化するか(増えるか,減るか)を計測すればいいのです.
簡単のために下図の様な平行平板を考えます.また電界はZ方向(3方向)にかかっているとします.外部から交番電界Epcosωpを印加したとき,元々の静電容量に対する,微小な静電容量変化の割合は,下の図の(2)式で与えられます.
この式から,印加した交番電界に比例して変化する成分を抜き出すと非線形誘電率ε333が測定できることが分かります.(もし印加交番電界の2倍の周波数で変化する成分を抜き出すと更に高次の非線形誘電率ε3333が測定できます.)
しかしながら,その誘電率の変化は非常に僅かなのものです(元々の値の100万分の1(10-6)程度).
周波数変調(FM)の技術を利用すると,それが可能となります.
求めたい静電容量の変化を周波数の変化に変換するためには,測定する試料にコイルを接続してLC共振回路を構成します.このLC共振回路の共振周波数 f は,静電容量 C とコイルのインダクタンス L を用いて次式のように表せます.
したがって,コンデンサに電界がかかっときに非線形静電率の存在によって静電容量が僅かに変化すると,その変化は共振周波数の変化に変換されることになります.
いろいろな物理量を測定する装置がありますが,周波数の測定は比較的安価な装置で,高い精度の測定を実現することができます.また,周波数はミキシングすることで,変化している桁のところだけを抜き出して計測することができます.これは元々の周波数が高い場合でも,小さな周波数変化が測定できることを意味します.
(10GHz(=1010Hz)のBS放送の信号で約1KHz(=103Hz)の音声信号の情報を抽出することができることと同じです.)
なお,非線形のある材料に,交番的に変化する電圧を印加しながら,この発振周波数のスペクトラムを調べることで,いろいろなことがわかるのですが,詳しくは省略します.この測定法は,非線形誘電率の動的測定法として,長教授が1992年に開発したオリジナルな計測技術です.
上で述べたような平行平板コンデンサを用いる,つまり測定したい試料を切り出してコンデンサを作り測定すると,試料(バルク)の平均的な非線形誘電率を精密に決定することができます.但し,この方法では分極の2次元的な分布を観察することはできません.
分極の2次元分布計測を行うためには探針(プローブ)を用います.
SNDMのプローブは,リング状のグランド電極と,電界研磨した先端が非常にシャープなニードル(金属針),それに外付けのLとCが帰還増幅器に接続された構造(回路構成)となっています.ニードルの先端から試料を貫通してリング電極へたどる電界のパスがありますが,これが容量(コンデンサ)となります.この容量と,LとCにより発振周波数が決まる発振器が構成されています.
試料の誘電率が変わると,ニードルとリング電極間の容量が変化するため,発振周波数が変化する仕組みになっています.
このプローブは,試料表面でコンパクトな構成になっており,10-23[F]という,非常に小さい容量を計測することが可能です.
上図はSNDMのプローブの写真です.リングの外形が約7mmです.銀色のケースの中に発振回路が入っています.
SNDMの装置全体の構成を下図に示します.
ステージとリング(およびニードル)間に交番電界Epを印加すると,ニードルの直下の静電容量が変化し,さらに発振器の発振周波数も変化します.この周波数変化を伴った信号(FM信号)は復調器によって普通の電圧が変化する信号に変換します.この電圧信号から印加電界と同じ周波数の信号成分を抽出するのですが,このときにはロックインアンプという装置を用います.ロックインアンプによって検出された信号の符号がプラスかマイナスかが分かれば,今まで述べてきた原理によって強誘電体の分極のがプラスの面なのか,マイナスの面なのかが分かることになります.さらに,2次元的な分極の分布が知りたい場合には,試料の表面でプローブを動かしながら(走査しながら)各点で分極の向きを調べ,それらのデータからコンピュータを用いて2次元画像として表示させます.