NC-SNDMによる電気双極子モーメントの原子分解能計測

SNDMでは,各次数の非線形誘電率を独立に検出することができます.したがって,この特徴を利用すれば,偶数次成分を距離制御のフィードバックに利用しつつ,奇数次の成分で分極の測定することが可能です.当研究室では,SNDMの持つこの特徴を用いて非接触走査型非線形誘電率顕微鏡(NC-SNDM ;Non-Contact Scanning Nonlinear Dielectric Microscopy)を開発しています.NC-SNDMでは,試料表面の形状と電気双極子モーメントを非破壊かつサブナノスケールでしかも同時に観察することができます.以下では,その成果を紹介します.


Si(111)-(7×7)表面の原子分解能観察


[Fig. 2, Y. Cho and R. Hirose, Phys. Rev. Lett. 99, 186101(2007).より
右図はSi(111)再構成表面にみられる(7×7) DAS構造の原子像です[Fig. 2, Y. Cho and R. Hirose, Phys. Rev. Lett. 99, 186101(2007).より引用].ε(4)信号を用いて得られた形状像では(7×7) DAS構造表面のアドアトムが可視化されています.また,ε(3)信号からは双極子モーメント像の同時に得ることができ,図にみるように表面のアドアトムが上向き(基板から表面の向き),コーナーホール付近が下向き(表面から基板の向き)のそれぞれ双極子モーメントを持つものとして可視化されています.これは,(7×7)構造のアドアトムが,プラスの電荷を持つシリコンの原子核,基板側に3本の共有結合,最表面側には1本のみダングリングボンドから成る上向きの双極子モーメントを持つためと考えています.


C60(フラーレン)分子の観察

次に示す図はSi(111)-(7×7)表面上に蒸着したフラーレン分子のNC-SNDM像です.ここでは形状像と個々のフラーレン分子による双極子モーメントが同時に可視化されています.形状像では約1nmの突起が多数観察されます(ただし,探針の形状効果のため大きく観察されます).また,フラーレン分子の多くは下向きの双極子モーメントを持つことがわかります.上述の通り,Si(111)-(7×7)表面のアドアトムは上向きの双極子モーメントを持つと考えられますが,それ に対応して,アドアトムからフラーレン分子への電荷移動が生じるために,結果としてフラーレン分子は下向きの双極子モーメントを持つようになると考えています.一方で,全てのフラーレン分子が下向きの双極子モーメントを持つわけではないこともわかっています.このようなケースはフラーレン分子がSi(111)-(7×7)表面の3回対称サイトとは異なる位置にあるときに生じ,このようにNC-SNDMでは界面の情報も知ることができます.


発表論文

[1] Y. Cho and R. Hirose, Atomic Dipole Moment Distribution of Si Atoms on a Si(111)-(7×7) Surface Studied Using Noncontact Scanning Nonlinear Dielectric Microscopy, Phys. Rev. Lett. 99, 18, 186101(2007).
[2] R. Hirose, K. Ohara, and Y. Cho, Observation of the Si(111)7×7 atomic structure using non-contact scanning nonlinear dielectric microscopy, Nanotechnology 18, 084014 (2007).
[3] S. Kobayashi and Y. Cho, Investigation of interface between fullerene molecule and Si(111)-7×7 surface by noncontact scanning nonlinear dielectric microscopy, J. Vac. Sci. Technol. B 28, C4D18 (2010).